策士な課長と秘めてる彼女
私利私欲にまみれて、自ら堕ちていった槙にも、陽生は温情を見せるつもりはなかった。

だが、日葵は誰も責めず、槙と橋満社長の行く末を案じるお人好しだった。

やはり一人にしてはおけない。

日葵がフリーの仕事なんて、悪どい奴等に利用されるに決まっている。

幸い陽生には営業で培ったノウハウがある。

新企業への引き抜きを持ちかけた陽生に、蘭と悠馬は呆れた素振りを隠そうともしなかったが、槙の所業と卑しい重役達の素行を聞いて、Hashimitsuを離れる決意を固めてくれた。

蘭と悠馬には、主任としての実力はもちろんこれまで培ってきた手堅い人脈がある。

それらは、新企業においても大きな力となってくれるだろう。

何より、二人は日葵の信頼を得ている数少ない人物なのだ。

他にも、Hashimitsuから、少数精鋭の各部門の若手エリートも引き抜いた。

基本、陽生は会社の運営は彼らに任すつもりだ。

万事手筈は整えた。

陽生の両親も日葵の家族も、これなら失職した直後だからと言って二人の結婚を反対はしないだろう。

現に陽生は、ここ数日で複数の契約を締結し、目に見えた利益をもたらした。

後は少しずつ事業を拡大していくだけ。

但し、陽生はどの案件も基本的に在宅で遠隔操作をする予定だ。

働き方改革を迫られている昨今、陽生は身を持ってそれを社員に示していくつもりだ。

今の陽生にとって、仕事は生活の手段であって生き甲斐ではなくなった。

全ては、愛する日葵との時間を守り抜くための1つの方法に過ぎない。

それが手段なら、大いに利用するまでだ。

陽生の頭の中は、日葵との甘々な時間を確保することだけが強いモチベーションになっているということ。

それは日葵以外の周囲の人間には周知の事実となっていた。


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