策士な課長と秘めてる彼女
「それでは、陽生さんはこちらの部屋をお使いください」

「日葵の部屋はどこだ?」

「私の部屋はお隣です」

蒼井家は縁側の並びにリビング・ダイニングがあり、その他、居室が三部屋にバストイレ、柊の部屋がある。

祖父は亡くなる前に、100坪の家屋を大幅にリフォームしていた。

縁側と庭は残したいが、平屋の昔ながらの家屋は女の子が一人で住むには、窓が広すぎる等、防犯上問題が多かった。

それに、遺産を現金で残しても相続税が多くかかる。

もちろん不動産にも相続税がかかるが、実際の価格よりも評価が下がるので、節税対策になるのだ。

そこまで考えて、祖父は、生きている間に家屋のリフォームを済ませてくれた。

そういうわけで、蒼井家は古い柱や外観を残したまま、外壁や内装は現代風にリフォームされておりとても綺麗だった。

陽生が案内されたのはセミダブルのベッドつき八畳の客間。

パソコンデスクとチェア、本棚があるが使われている様子はなかった。

「誰のための部屋?」

「誰のためというか・・・。前に私が使っていた家具を、余っている部屋に押し込んでいるというのが実際です。両親が来たときは和室で布団を敷いて寝ますし、誰か来たときに使えるかなと思って・・・」

「実際、誰か来たのか?」

「いえ、陽生さんが初めてです」

「そうか、役に立って良かったな」

「・・・そうなんですかね?」

首を傾げる日葵は納得いかない様子だったが、すぐに気をそらして、

「あ、陽生さん。ご飯食べましたか?私、あれから寝ていて、昼食を食べてないので何か作りますけど陽生さんも食べます?」

うさ耳パーカーの日葵がお腹を擦りながら陽生に聞いてきた。

「食べる」

「好き嫌いは?」

「ない」

「良かった。荷物を片付けたらキッチンに来てくださいね」

そう言って、ピョンピョン跳ねながら台所へ消えていく日葵を見て、陽生は微笑ましいながらもあっさり行き過ぎて少し不安になった。
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