策士な課長と秘めてる彼女
意気揚々と広報企画課の島に戻った日葵は、給湯室に置いてある自分専用の携帯用ポットを掴むと、マグカップに中身を注ぎ、自分のデスクに座った。

デスクには、デッサン帳に一眼レフカメラ、パソコン、色鉛筆などが並んでいる。

日葵が通った大学は美術系の4年大学で、彼女は写真とデザインを専攻した。

大学時代は、風景や動物を好んで撮影していたが、今では人物や食料品が被写体となることが多い。

好きなことを仕事にしているから、日葵は現状に何の不服もなかった。

「取材、オッケーもらえたか?」

紅茶を飲む日葵に話しかけてきたのは、真島と蘭と同期で、広報企画課の主任である三石悠馬(みついしはるま)32歳だ。

「はい。意外にも一発オッケーでした」

「そりゃそうだろうな」

「えっ?そんなことないですよ。゛取材お断り゛で有名ですもん。よっぽど課長になれたのが嬉しかったんでしょうね」

マグカップを両手で抱えてフーフーと冷ましながら口に含む日葵を見て、悠馬は苦笑する。

「そういうことにしといてやるか」

「?」

ポンポンと頭を叩く悠馬に首を傾げていると、またも、遠くから殺気を感じた。

営業部と広報企画課は同じフロアにあり、二つの島に分かれて設置されている。

日葵のデスクから斜め右前方、数メートル先に真島のデスクが目に入る。

゛また睨んでる。声がうるさかったかな?゛

こんなとき日葵は両目とも視力2.0な自分を恨めしく思う。

真島の鋭い視線から目をそらすと、やれやれ、と再度、マグカップの中の紅茶と向き合った。

そんなマイペースな日葵から真島に目を向けた悠馬は、

「蒼井・・・ちょっとは気づいてやれよ」

と訳のわからないことを呟いて、自席に戻っていくのだった。
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