策士な課長と秘めてる彼女
高梨警察犬訓練所を後にすると、二人と一匹は陽生のワンボックスカーに乗って、蒼井家に向かった。

陽生の行動力は半端なく、ワンボックスカーに柊を乗せるための大型犬用のキャリーもいつの間にか購入していて日葵を驚かせた。

たった2週間、居候するために、そこまでするのかと日葵は驚きはしたものの、不思議と嫌悪感がなかった。

陽生は、柊が人間だったらこんな感じだろうな、と日葵が考えていた人物を体現したような人だ。

自信に溢れていて、ぶれなくて、無口で凛として格好いい。

さりげなく気遣ってくれるところや、肝心なときに守ってくれて寄り添ってくれそうな・・・。

そこまで考えて、日葵は

゛いけない、これは期間限定の関係で、行き場をなくした陽生さんが現状に困って仕方なく飛び込んだ非常事態なんだから゛

と、あらぬ方向に行きそうになった自分の思考を振り払った。

高校時代も大学時代も、祖父の訓練所に入り浸っていた日葵。

高校時代のある日、

「蒼井ってさあ、どうせ彼氏ができてもそいつより犬を優先するだろうな?まあ蒼井みたいな顔だけの動物オタク、彼女にするような物好きいないだろうけど」

と、仲の良い友達の中でも、日葵が少し好感を持っていた男性が陰でそう言っているのを聞いて、恋愛に飛び込む勇気を持てなくなってしまった。

動物好きでいつも彼らを優先している事実は否めない。

動物を飼うということは命を預かることだ。

祖父からも常々そう言われて過ごしてきた。

面倒を見ることも、あまり旅行や長時間のお出掛けができないことも、それほど苦痛に思ったことはなかった。

だから、全てにおいて恋愛を優先する男性とは恋愛できないと思った。

社会に出る頃には、

゛何としてでも警察犬にかける自分の熱い気持ちを理解してもらいたい゛

などという、情熱的な想いを男性に抱くこともできない日葵は、女性としてどこか欠陥があるのではないかと思い始めていた。

そう考えると、陽生に感じ始めたこの淡い感情は、女として良い兆候なのではないか、と日葵は思った。

゛強引だけど私が嫌がることはしないしね゛

むしろ、日葵にも柊にも勿体ない位献身的に尽くしてくれていると言っても良いかもしれない。

お人好しの世間知らずな日葵は、まんまと陽生の心理戦に嵌まろうとしていた。
< 42 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop