策士な課長と秘めてる彼女
「そろそろかな・・・」

「えっ?」

「いや、こっちのことだ」

ちらりと時計に目をやる陽生に、日葵は何か在宅でやる仕事か取引があるのだろうと思っていた。

「この唐揚げうまいな」

「生姜と醤油、マヨネーズが隠し味です」

「マヨネーズか、意外だな」

箸で掴んだ唐揚げをまじまじと見つめる陽生は、先週までの日葵を睨み付けていた陽生とは別人のようだ。

゛やっぱり格好いいな゛

テーブルごしにちらっと陽生をみながら、日葵は会社の女子社員が陽生にキャアキャア言う気持ちがわかる気がすると思った。

一瞬、静かになった食卓に、陽生のスマホの呼び出し音が鳴り響いた。

「ちょっとごめん」

箸を置いた陽生が、片手をあげて謝る姿勢をとると、スマホの電話に出ていた。

「もしもし」

『陽生さん!大変なの!すぐ帰ってきてちょうだい。今すぐよ!』

1メートル以上離れた日葵にも通話の内容が聞こえるくらい相手の女性は動揺していて、鬼気迫る大声で話していた。

「何事ですか?」

しかし、対応する陽生は全く動揺していない。

『何事もなにも一大事なの!』

捲し立てる女性の声が騒がしくて申し訳ないと思ったのか、陽生はごめんと断って、ダイニングから出ていった。

「なんかあったのかな?ねえ、柊くん」

あっという間に食事を終えてご満悦な柊は、伏せの姿勢で首をかしげるがあまり興味はない様子だ。

「・・・食べよ」

マイペースな日葵は、もう唐揚げに気持ちがシフトしていた。

「再び、いただきます」

両手を合わせた日葵は、ニンマリと山盛りの唐揚げを見て微笑む。

こうして好きなものを好きなだけ食べる。

これぞ大人買いの醍醐味だ、と日葵は真剣に思っていた。

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