策士な課長と秘めてる彼女
陽生が部屋に戻ると、どういうわけか日葵が真佐子の膝の上で眠っていた。

どうやら真佐子がお酒を飲ませ過ぎたらしい。

「日葵さんはお酒に弱いのね。こんなに隙があると心配になってくるわ」

「同感です」

膝枕なんて、自分もまだ未経験なのにと、陽生はムッとする。

「あら、陽生さんのそんな嫉妬にまみれた顔初めて見るわ」

膝の上の日葵の頭を撫でながら、真佐子は勝ち誇ったように言った。

「どいてください。僕のですから」

「おやおや、陽生は本気のようだな」

真佐子を追いやって、自分の膝の上に日葵の頭を乗せた陽生に、真佐子も孝明も苦笑した。

「本当に可愛い子ねぇ。大きな目とか柔らかい髪とか、毬ちゃんにソックリ」

「うさミミパーカーの日葵は、まるで本物のイングリッシュロップのようですよ」

そう言って、陽生はスマホにおさめていた、うさミミパーカー姿の日葵の写真を見せる。

もちろん隠し撮りで本人の同意は得ていない。

「まあ、可愛らしい!是非ともお嫁さんにしたいわ。ねえ、あなた」

「二人とも、もうそのつもりなんだろう?」

「その通りよ。理想の娘が自分からやって来たんだもの。離さないわ」

ピクリと耳をたてた柊を、チラリと真佐子が見て舌を出す。

「陽生さん、絶対に日葵さんをものにしなさい。失敗は許しませんからね」

「あーあ、日葵さんがお気の毒に思えるよ。まるで蛇に睨まれた蛙だな」

「狼に狙われたウサギちゃんと言ってちょうだいな」

好き嫌いは激しいが、気に入ったものは大事に、そしてどこまでも執着する真佐子と陽生は間違いなく母子だ、と孝明は思った。

「では、お披露目も済んだことだし、僕は蒼井家に戻ります。柊、go」

「あら、泊まればいいのに。そのつもりで日葵ちゃんを酔わせたのよ」

「柊のトイレや食事、寝床がここにはありません。何より、今はまだ日葵の信用を失うわけにはいきませんから」

そう言って、陽生は日葵を抱き上げて立ち上がった。

「そのうちに日葵の両親を説得します。お二人は心の準備だけしておいてください」

「まあ、楽しみだわ。陽生さんなら立派にやりとげてくれると信じてるから」

この母にしてこの子ありだな、とウイスキーの入ったグラスを傾けて、孝明は笑った。

真島側の首尾は万全に整った。

陽生は意気揚々として、柊を引き連れ、蒼井家に帰るのだった。


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