策士な課長と秘めてる彼女
「柊、lie down」

日葵の号令に、柊が部屋の端に移動し伏せをする。

「まあ、賢いワンちゃんね。あなたにも何か作ってあげましょう」

柊に近寄って頭を撫でる日南子はとても認知症のようには見えない。

認知症は良いときもあれば悪いときもある。

それの積み重ねだ。

昔のメニューを再現することで、日南子の癒しになればいいと日葵は思った。

「おばあちゃん、私も手伝うよ」

「ありがとう、日葵ちゃん」

「じゃあ私は珈琲をいれよう」

祖父はレストランで珈琲をいれるのが得意だった。

祖父のいれる珈琲を遠くからわざわざ飲みに来るお客様がいるほど人気だった。

世が世ならバリスタになっていたに違いない。

並んで作業をする祖父母に、日葵も日葵の両親も目元を緩めた。

もちろん、それを見つめる陽生の顔も穏やかだった。
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