策士な課長と秘めてる彼女
「はあ、私も何が何やら・・・」

「何よ、そんないい加減な気持ちで結婚するわけ?槙ちゃんに悪いと思わないの?」

゛槙ちゃん゛と陽生が付き合っていたわけではないから悪いと思う必要はないのだが、そんないい加減な気持ちで結婚してもいいのか?という言葉には同意を覚える。

「そうですね・・・」

日葵の弱気な姿勢に気を良くしたのか、秘書課のボス中島多栄子32歳は、腕組みしながらフフンと顎をしゃくり上げて

「悪いことは言わないわ。元カレとの関係をもう一度考え直してみなさいよ。警察官のエリートなんでしょう?」

と言った。

中島が言っているのは、3年前の新人歓迎会で日葵の彼氏と勘違いされた高梨輝顕のことだろう。

当時はまだ、輝顕は独身だった。

誰かが輝顕の身辺を調べあげたのかもしれないが暇人もいるものだと、日葵は内心呆れていた。

何故、この先輩方が輝顕のことを知っているのかも謎だが、いまや彼は妻帯者だし、日葵と一度もそんな関係になったことはない。

しかも、日葵が架空の彼氏として話をしていたのはジャーマンシェパードの柊なのだし。

「それは難しいかと・・・」

「あなた、この会社で仕事を続けていくつもりなら、軽率な行動は慎むことね。とにかく、真島課長との結婚は良く考えなさい」

他人の結婚にまで口を挟んでくる女のやっかみへの嫌悪感と、昨日の疲労による倦怠感から、日葵は溜め息をついた。

「槙ちゃんのお父様はこの会社の社長だということは知っているわよね。娘が傷つけられたと知ったら、社長も黙っていないわ」

゛そんな私情を振りかざす社長のいる会社ならこちらから辞めてやる゛

と思う日葵だが、ここまで否定されると、自分と陽生はやはり釣り合わないのではないか、という疑問が生じてきた。
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