策士な課長と秘めてる彼女
妥協や利用という槙ちゃんの言葉を、陽生は否定しなかった。

それが全てで本心なのではないだろうか?

今の話をまとめると、槙ちゃんの父である橋満社長から、槙ちゃんとの結婚を打診された陽生が、何らかの理由でそれを拒否し、騙しやすい日葵を利用して妥協して先手を打とうとしているようだ。

これまでの優しい態度も、両親や祖父母に対する真摯な態度も全部うそ・・・。

何より、イケメンのやり手課長が警察犬オタクの日葵を相手にするわけがなかった・・・

非常階段を降りてエントランスを出ていく二人を後方から見送りながら、日葵は呆然と立ち尽くしていた。

トボトボと会社を出て、相手先の印刷会社に向かっていると、柊を連れ、警察官の格好をした輝顕とバッタリ出くわした。

「よう、日葵。今日、警察の方から柊に仕事の依頼があった。事件の犯人と遺留品の跡追求犬としての仕事だ。早速、業務開始。事後承諾だが、いいよな」

高梨警察犬訓練所に預けている間の依頼を受けるのは、基本的に高梨所長に任せている。

一度、仕事に入ってしまうと、解決するか、捜索取り止めになるまでは数日帰ってこないことが多い。

日葵はこのタイミングで不在となる柊の間の悪さを恨んだ。

「仕事だしね。頑張って」

大きく尻尾を振る柊は嬉しそうだ。

何より柊は仕事が好きで、人の役に立つことを生き甲斐にしているようなところがある。

「頑張って」

日葵は柊の頭を撫でて、ギュッとその体を抱きしめると、並んで歩く輝顕と柊を見送った。
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