太陽と月

真也さんの言葉が私の心に広がっていく。


美月は、きっと私が悲しい時は一緒に泣いてくれるだろうし、嬉しい時は一緒に喜んでくれる。


でも、ありのままの自分を見せたら、きっと軽蔑される。


私から離れていく。


“そうしたら椿は独りぼっちだね”そう颯介の言葉が頭の中を鳴り響く。


黙ってしまう私をみた真也さんは


「椿?新しい生活はスタートしたばかりだよ。きっと大丈夫。誇り高く美しい大人になるんだよ」そう言うと再び本に目を移した。


私もコクリと頷き、真也さんの前のソファーに座り持ってきた本を読む。


本に集中していると、リビングの扉がガチャと開かれた。


入って来たのは颯介だった。


何も言わず、キッチンに行き水を飲む颯介。


真也さんがちらりと颯介を見て


「久しぶりだね。颯介。元気してたか?」私と同じ様に話しかける。
そんな真也さんに


「別に。求められてる事はきちんとやってるよ」そう目を合わせる事なく言った。


真也さんは小さくため息をつき
「そうか。」だけ言うと再び本に目を移す。


颯介と真也さんの間に流れ出る空気は冷たいものだった。


陽介はあんなにも真也さんを尊敬しているのに。


颯介がリビングから出て行ったのを確認して真也さんに話かける。


「真也さん、颯介はあまり喋らないの?」そう聞くと真也さんは本を閉じて


「そうだね。颯介は必要最低限しか話してくれないね。いつか、颯介にも、ありのままの自分を見せれる人が現れて欲しいと願っているよ。ただ、颯介が見ている世界はきっと闇なんだろうね」
そう悲しそうに言った。


「…闇?」


「椿、世の中には腐った人間で溢れてる。自分の為なら人を蹴落としてでも這い上がってくる人間がごまんといる。自分の欲望の為に、平気で子どもを捨てる親もいる」そう言って私をジッと見る。


あの時の目だ。私が初めて真也さんと会った時の目。


真也さんは続ける。


「椿の親もそうだったよね?椿、忘れたら駄目だよ。椿は捨てられたんだ。」


心臓がドキドキした。
< 100 / 230 >

この作品をシェア

pagetop