太陽と月
私は最低な人間だ。必死で守ってくれた陽介を裏切ろうとしている。
私は…弱い。卑怯者だ。
「椿、大丈夫。椿には僕がいてるよ。どんな椿でも僕は見捨てない。軽蔑しない。」そう言って颯介は私を抱き寄せた。
「椿は僕の傍に居たらいい。僕の前だけでは、醜くて、卑怯で、弱い椿でいて良いんだよ」と優しい声で言われる。
何も言えずに、私は空を見上げた。そこには雲ひとつかかっていない月が私を見下ろしていた。
「…颯介…約束守ってくれる?」
あの時交わした約束を。
「守るよ。」
「私…どうしたらいいかな?私、可笑しいの…。陽介が大事なの。美月も大切な友達なの。でも…たまにドロドロした感情が私の心を…塗りつぶす」
颯介は私を抱き締めたまま
「陽介にも美月ちゃんにも騙し通せばいい。演技するんだ。いい子の椿を。親に捨てられて可哀想な椿を。」
騙す…?
陽介と美月を?
「それが出来た時、椿はこっち側の人間になれるんだ。こっちの世界に入れる。」
颯介がいる世界はどんな風に映っているんだろうか?
「椿、僕がいる世界は…絶望しかないよ。でも…それが生きていく為の」
「…希望なんだ…」そう呟いた。
颯介、貴方は、氷の様に冷たく、お湯の様に暖かく包み込んでくれた時もあったね。
そんな貴方が絶望と希望の狭間で苦しんでいた事に私は気付いてあげれなかった…。