太陽と月

この日は、天宮さんの授業の日だった。


慌てて家に帰り、準備をする。
時間ピッタリに部屋の扉がノックされる。


「椿さん、こんにちは」ドアの向こうには天宮さんは微笑んでいた。


やっぱりこの笑顔は苦手だ。本当は、心の何処かで私を見下している様な笑顔だ。


この笑顔は施設で何度も見てきた。

優しいフリをして、本当は見下している。心のなかで、“捨てられた子”だと哀れに思っている。この子達に比べたら自分はマシだと優越感を感じている。


そんな顔は幾度も見てきた。


「椿さん?」天宮さんがもう一度私に声をかける。


「あっごめんなさい。今日も宜しくお願いします」とぺこりと頭を下げた。


天宮さんの笑顔は苦手だったけど、勉強の教え方は、凄く分かりやすく
学校の授業は簡単についていけた。













「はい。では今日はここまでにしましょう」そう言って天宮さんはテキストを閉じた。


「ありがとうございました。あっ!天宮さん、この前の紅茶ありがとうございました。凄く美味しかったです。ストレートだと苦かったので、お砂糖沢山入れちゃったけど」
とお礼を言った。



「いいえ。確かに椿さんには苦く感じるかもしれませんね。砂糖でその苦さを誤魔化して飲むのと良いと思いますよ」と微笑んだ。


でも私にはその微笑みの下に隠されている、天宮さんの本心が見え隠れして心をかき乱される。




“苦さを誤魔化す”この裏には、私自身を見下す心が潜んでいる、そう感じた。


私も微笑み返し
「私もその苦さが美味しいって思える大人に早くなりたい」そう言った。


天宮さんは何も言わず、笑みだけ残し部屋を後にした。


私は天宮さんが部屋から出て行った事を確認すると、引き出しを開けて
天宮さんに貰った紅茶を出す。


紅茶のパック開けて、ゴミ箱の上で袋事逆さまにした。


紅茶の葉がザッーと勢いよくゴミ箱に流れ落ちていった。


まるで、奈落の底に落ちていく様に…。
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