太陽と月
私は空になった紅茶の袋もゴミ箱に捨てた。
ふと目の前にある鏡の中の自分と目が合う。その目には光はなく、暗く濁っていた。
この目は人を恨む目だ。あの時の目だ。有希ちゃんを……
陥れた時の目だ。私はその記憶をかき消す様に目を瞑り頭を左右に振った。
「椿さん、今日のご飯は大阪名物お好み焼きですよ!隠し味は山芋をすり下ろし入れるんです。そうすると生地がふっくらしますからね」とキッチンに入るとマリ子さんが、笑顔で迎えてくれた。
「そうなんだ。マリ子さん、私も手伝うよ」腕まくりをして手を洗った。
「あらあら。助かります。ではキャベツを切って貰えますか?」とお願いをされた。
私はマリ子さんとの時間が好きだ。
私のママとは似ていないけど、
もしあのまま、ママと暮らしていたら、こんな風に一緒に料理したのかな?と思う。
それにマリ子さんは本当に私の事を優しい眼差しで見てくれる。
料理している時は、いろんな事を話せた。それは、他愛ない事ばっかりだったし、次の日には何の会話したかな?と思う程の内容だったかも知れないけど、楽しい時間だった。
「うんまーー!このお好み焼きすげー旨い!」と毎回お馴染みの言葉がリビングに響き渡る。
「今日は椿さんもお手伝いしてくれたんですよ」とマリ子さんが微笑む。
「椿!天才!体育祭の日の弁当作ってよ!」と口をモグモグしながら突拍子も無い事を言ってくる。
「お弁当?嫌!無理だよ!そんなの。」とキッパリ断っているのに
「椿の弁当食べたら昼からのクラス対抗リレーぜってー勝てる!颯介!今年は負けねーぞ!」と行儀悪く手に持っていたお箸をビシッと颯介に向けた。
颯介は何も言う事なく、涼しい顔でご飯を食べ続ける。
「あらあら。お行儀の悪い!」とマリ子さんが陽介を嗜めた。
そんな事を気にする事なく、陽介は
「椿!弁当作ってな!約束!」また言ってくる。
だってそんな事が周りに知られたら…。
まただ。また私は真っ先に自分の事を考えている。