太陽と月

誰もが予想しなかった言葉を陽介が放った。


さっきまでの盛り上がりが嘘の様に静寂に包まれる。


そんな事をお構いなしに、颯介の言葉は続く。


『何?告白でもされると思っちゃった?君みたいな下品で愚かな人間を僕が好きになる訳ないよ』


唖然とする木下先輩。


『それに、僕みたいな人間から好きになられても困るでしょ?だって僕は…』一呼吸を入れる颯介に全校生徒が注目する。



『“捨て子”だからさ』と微笑んだ。


私はその言葉を聞いて、目を見開き驚きを隠せないと同時に、笑みを浮かべている自分がいる事に気付いた。


颯介…貴方の守り方はいつも狂気的で人を傷つけるやり方だったね。


でも私は、その裏に隠された不器用で優しいところに惹かれていた。


さっきまでの盛り上がり消え去り、今は誰もが固唾を飲んでいる。


そんな静寂を破ったのは


『はい!西園颯介!お前は何を言っている!面白くないよ!その冗談!』


陽介だった。いつの間にか、アナウンス部でマイクを持ち、颯介と木下先輩の近くにいた。


『木下さん!ごめんね?俺がこいつに、何か面白い事しろと言ったんだけど、全くもって不愉快だよね!?後で説教しとくから!』


無理のある言い訳だったけど、陽介の必死さが伝わったのかアナウンス部もその場を取り繕う様に続けた。


『まさかの兄弟喧嘩勃発か!?それでは皆さん!今がチャンスです!今のうちにどんどん西園を追い越しましょう!』


その一言で止まっていた時が動き、借り物競走が再開された。


私は分かった。これが颯介の“逆襲“なんだと。


木下さんはさっきの女2人に抱きかかえられる様に戻って行った。


私はその姿を呆然と見ていた。


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