太陽と月
「椿!」クラスの元に戻ると美月が駆け寄って来た。
「大丈夫なん?」心配そうに見つめる美月。
「うん、大丈夫!大した怪我じゃないよ」
そう笑う私の手を取り
「それもそうやけど…借り物競走…」
あぁそうか。美月はその後の出来事を心配してくれてたんだ。
「ごめんね。心配かけて」
「あほ!」そう言って美月は握る手に力を込めた。
いきなり、あほ!と言われて面食らっていると
「ちゃうやん!そう言う時は、“ありがとう”やろ?」と言った。
いつの日か、陽介にも言われた気がする。
“ごめんねじゃなくて、ありがとう“そう言って欲しいと。
やっぱり、陽介と美月は似ていると思った。
その優しさが時には私を苦しめる。
私なんか、優しくされる価値のない人間なんだから。
「そうだね!ありがとう」
美月はそれ以上の事を聞いてこなかったので、ホッとした。
「早く明日にならんかなぁー」美月は唐突に口を尖らせて私に言ってくる。
「明日…?」首を傾げる私の肩を掴みグワングワンと体を揺らされた。
目が回る…。
何だっけ?明日。
「忘れてたん!?明日は卓也さん達とのデートやん!」と叫び声に近い声で私に言う。
あっ忘れてた。
私の表情を見て察したのか
「忘れてたやろ!?頼むで!私の人生かかってんやから!」
私は思わず笑ってしまった。
恋に一生懸命な美月が可愛いと思った。
明日のデートが崩れゆく日常の一歩になる事に私はこの時は気付いていなかったんだ。