太陽と月
「陽介先輩!」私が声を発する前に美月が先に陽介の名前を呼んだ。
突如現れた、陽介にクラスはざわめく。
「生徒会長だー!」
「カッコイイよね!」
陽介の前だからか、私を中傷する声は聞こえてこなかった。
「…卵焼き…」私がやっと口を開いて言ったのはその一言だった。
「旨い!」そうニコリと笑う陽介に私はジロっと睨んで
「私1つも食べてない!美月が2つ食べて、陽介が最後の1つ食べた!ズルイ!あり得ない!」そう言うとクラスがシーンと静まり返えった。
えっ?やばい。まずい事言ったかも…そう後悔した時、美月がケラケラと笑い始めた。
「椿子どもみたいー!めっちゃオモロイねんけど!卵焼きでそんなに怒りなやー!」とお腹を抱えて笑っている。
陽介は1人で焦りながら
「ごっごっごめん!いやだって…お弁当…楽しみ…いや…卵焼きが美味しそうで…お腹空いててつい…」とアタフタしている。
そんな姿を見た美月が、
「陽介先輩焦り過ぎやから!何なん、自分らめっちゃウケるねんけど」
と更に笑う。
そんな私達を見ていたクラスにも笑いが起こった。
「西園さんって面白いんだね」
「西田さん笑いすぎでしょ」
「にしにしコンビ楽しそうだね」
どの声も中傷的ではなく、好意的に感じられた。
「食べ物の恨みは怖いって言うからね!じゃあ俺はこれで!」と慌てて出て行こうとする陽介を呼び止める。
「陽介!何か用だったんじゃないの?」
「そうだ!本来の用事忘れてた!あまりにも椿が怖かったから」と頭をポリポリと掻く陽介。
そんな陽介をみて、クラスがまた笑いに包まれる。
「はい。これ!ちゃんと張り替えな?」と渡されたのはバンドエイドだった。
「ありがとう」そう言って受け取った。
「では!お邪魔しました!あっ!昼からの対抗リレーこの西園 颯介に声援を皆さん宜しくお願いします!」そうおちゃらけてお辞儀をする陽介。
またクラスに笑いが起こる。
入学して初めての心地よい空気感だった。
陽介、君はいつも私と誰かを繋いでくれる架け橋になってくれたよね。
私はそんな架け橋を少しずつ潰していく事になるなんて思ってなかったよ-----。