太陽と月

居た!


月明かりの下で颯介はベンチに座って居た。


「颯介!」私の呼ぶ声に颯介は振り返り微笑んでくれた。


私は颯介の隣に座り、何も言わずに月を見上げた。


今にも夜空に吸い込まれて消えそうな月だった。


先に口を開いたのは颯介だった。


「アイツに何か言われた?」

アイツとは誰の事を指すんだろう…


「アイツ…?」


「俺らの飼い主」そうぽつりと呟く。


「何も…」そう答える私に少しだけ喉を鳴らし笑う。


「相変わらず椿は嘘が下手くそだね」


私は話を替えるために、体育祭の出来事を聞いた。


「ねぇ、颯介…借り物競走の紙をすり替えたの?」


「…まぁ造花で間違えでは無かったよね。だって椿は偽物なんだから」


そう言ってタバコに火をつける。


「それでも…紙をすり替えてくれた。私を“大切な人”って思ってくれてる」


そう信じたかったから。


「そう。椿は誰よりも“大切な人”だよ」そう微笑み私の口元に吸いかけのタバコを運ぶ。


私は一口吸い、喉にミントの味が通る快感を味わった。


「あーあ。タバコに慣れちゃった」そう笑う颯介。


違うよ。タバコなんてどうでも良い。ただ、颯介に近付きたかっただけ。


そう思った通りけど、口には出さなかった。


「ねぇ、颯介…。ありがとう」


「何が?」


「…逆襲…」


陽介は颯介がした事を怒っていたけど、私は嬉しかったんだ。


「あぁ。あのバカ女の顔、笑えた」
酷いことを言っているのに、私は堪らなく、嬉しく思った。


人が傷ついて、嬉しく思うなんて相当いかれていると思う。


「ありがとう」もう1度言うと颯介は


「だったらさ、ちゃんと僕にお礼をして?」
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