太陽と月
そう言ってタケさんは反対の手で私の背中にそっと触れた。
まるで“大丈夫”と言ってる様に感じる。
「じゃあタケ、ちゃんと送ってあげて」と卓也さんが口を開いた。
「椿ちゃんもまたね」そう微笑みかけられる。
「はい。今日は楽しかったです」
私はそう言って頭をぺこりと下げる。
「椿!気つけて帰ってなー!またメールする!」それだけ言うと卓也さんにべったりひっつき、人混みに消えて行った。
2人の姿が見えなくなったのを確かめてから、小さく溜息をつく。
「女の子は彼氏出来ると、彼氏優先なっちゃうからね」と隣で苦笑しながらタケさんが言った。
美月が卓也さんが付き合えた事は良かったと思う。
でも、今日の美月はまるで初めから私なんて居ないって言う態度だった。
美月の目には卓也さんしか映っていなかった。
「椿ちゃん?大丈夫?」タケさんが私の顔を覗き込む。
「はい!大丈夫です!あと私、寄る所あるんで、ここで解散って事でいいですか?」
本当は寄る所なんて無い。
でも今は1人になりたかった。
見上げた夜空には雲がかかっていて月が見えそうにもない。
「…分かった。気をつけて帰るんだよ?」
タケさんは見た目と違って凄く優しいと思った。
2人で遊んだ遊園地も楽しく過ごせた。
「はい。今日は本当にありがとうございました!楽しかったです」と自然に笑顔で言えた。
それだけ言って、出口ゲートに向かおうとしたら
「椿ちゃん!」タケさんに呼び止められ振り向く。
暗くてタケさんの顔はよく見えなかった。
振り向いた私に何も言わないタケさんを不思議に思い
「…タケさん?」と声をかける。
一呼吸置いたタケさんが
「卓也には…近付かない方がいい。」と小さな声でぽつりと言った。