太陽と月

そう言われた河口さんは


『しかし、今は椿さんの…』


私はチャンス!だと思い口を開く。


『河口さん!ギブ!少し休憩したいです!』


と必死に言う。


河口さんは、怪訝そうな顔付きで


『いや、まだ初めて10分ですよ!』


そう言われてるタジタジなってると


『河口さん、僕5時から予定あるんだよね。一汗かきたいんだ。』


一定のトーンで話す颯介。


『椿さん、すみません。一手だけ、颯介さんと手合わせさせて頂いても?』



ぶんぶんと首を立てに降る。


ヤッタ!解放された!  


そう思い、颯介をチラっとみたけど
目が合う事は無かった。


『では、颯介さん。手合わせしましょうか。手加減はした方が宜しいでしょうか?』


とニヤっと笑う河口さんに


『手加減なんて要らない。手加減したら二度と大会には出ない。』


と颯介は答えた。


『それは困りますね。では手加減は一切しません。』






目の前で2人が手合わせを始めた。


ルールとかは全く分からなかったけど


颯介の迫力と河口さんの迫力は凄まじいものだった。


『セイッ』とお腹に響く声がした。


河口さんの足は颯介の顔スレスレの所で寸止めされていた。


颯介は聞こえるか聞こえないくらいの声で


『負けました』と言う。


河口さんはさっきまでの気迫はなくニコリと笑い足を降ろした。


2人で礼をし


『ありがとうございました』


と言う。


その時、チッと舌打ちをしてその場に胡座をかき座り込む颯介の姿が目に映った。


『オヤオヤ。新鮮な道場で舌打ちとは頂けないですよ。』


と穏やかに笑う河口さんに


『河口さんはいっつも寸止めだ。入れてくれればいいのに。』


河口さんは笑顔で、『自分はあくまで指導させてもらってる身なんで。入れて欲しければ、邪念を捨てて下さい』



邪念?


そう言われた颯介はもう一度と舌打ちをしたけど、立ち上がり 


『ありがとうございました』


礼をして道場を後にした。


私の事を一度も見る事はなかった。


颯介が出ていってから河口さんに聞く。


『凄い!河口さん強いんだね!』


そう言った私に、河口さんは


『まぁ一応師範ですから。』


と照れくさそうに答えてくれた。


『颯介も強いの?』


『勿論!颯介さんは全国中学生の大会で殆ど優勝されていますよ。』


と穏やかに言った。


『凄いんだね!そうな風には見えないよ』


颯介は武道とかしそうな雰囲気じゃない気がした。


『颯介さんは強い。邪念を捨てさえすれば真の強さを手に入れる事が出来るんですけどね。』


と独り言の様に河口さんが呟いた。


『邪念…?』


私が聞くと河口さんは、誤魔化す様にパンっと手を叩いた。


『はい。お話しはここまで!さっきのストレッチの続きをしますよ。椿さんは体が硬すぎなんで、今日主にストレッチから始めましょう!』


と笑顔で言う河口さんから逃げ出したくなったのは言うまでもない。
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