太陽と月
新しい生活
『新入生代表、西園 椿より挨拶』
無駄に広い体育館に学年主任の声が響く。
呼ばれた私が立ち上がると一斉に皆が私を見る。
2年生の列を見ると陽介が口パクで頑張れ!と両手でガッツポーズをしていた。
颯介は気怠そうに窓の方を見ていた。
西園家に入って一ヶ月もしない内に新しい中学生活が待っていた。
元々私立の学校だから受験が必要だった。私の場合は受験日はとっくに過ぎていたけど、特別に試験を受けさせて貰えたのだけど…
「え?主席入学?」
テーブルの上に積まれたテキストをパラパラと見る私に天宮さんがとんでもない事を言った。
「当たり前です。椿さんには主席で入って貰います。その為には試験でトップになってもらわないといけません」
天宮さんはニコニコと笑いながら言った。
「いや、でも…」
と狼狽える私に
「でも、だって、私の前でその言葉は禁止です!」
とぴしゃりと言われた。
試験までの短い期間私は、天宮さんのスパルタ授業を毎日受けた。
元々、勉強は苦手じゃなかったけど尋常じゃない程のテキストを解くのは流石にしんどかった。
そんな苦い思い出を胸に壇上の階段を上がる。
「暖かな春の訪れとともに、私たちは入学式を迎えることとなりました。本日はこのような立派な入学式を行っていただき大変感謝しています。新しい制服に袖を通し、今までとはまったく違った日々が待っています。不安もありますがどんな毎日が待っているのだろうと期待もあります。」
どっかのネットに載っていた文章をそのまま読み上げる。
そんな私に陽介は壇上の下から微笑んでいた。
颯介の方を見ると、冷たい眼差しでふっと笑った気がした。
“いい子の椿はうそっぱちだ”
そう言われた気がして私は手に握っていた紙をグシャッと握り潰した。
そして小さく深呼吸をした。