太陽と月
まただ。またこちらを見ない。
まるで存在すら許されない様な感覚に陥る。
「…河口さんありがとうございます」そうぺこりと会釈をして道場を後にした。
颯介が分からない。横に来てくれたと思うと直ぐに居なくなる。
そう思いながら着替えてリビングに行くとソファーに寝そべる陽介がいた。
「陽介?勉強終わったの?」そう声をかけると反応がなかった。
スースーと寝息を立てている。
寝てるのか…そう思い、近くにあったブランケットをかける。
「…母さん…」小さな声が聞こえた。陽介の顔を見ると一筋の涙が流れていた。
泣いてる。
夢でも見てるのか?
涙を流す陽介の顔はすごく綺麗に見えた。
その時、自分の中でドロっとした感情が湧き出るのに気付いた。
この感情は何だろう?
分からないけど、どうしようもなく切なく、苦しくなった。
「椿さん」
後ろから声をかけられた。
そこには天宮さんが立っていた。
「あっ!天宮さん」
「今日は主席での入学おめでとうございます。流石…私の指導の元勉強された事だけありますね」
そうニコリと笑った。
だってスパルタだったじゃん。
そう思ったけど口には出さず、お礼を言う。
「天宮さんのお陰です」
私は天宮さんが何故か苦手だ。
笑っているけど、何処か人を寄せ付けない笑顔。
この笑顔は誰かに似ている。
そう。今まで見てきた腐った大人の笑顔。
そう感じた。