大人の女に手を出さないで下さい
「俺が忘れられないほどお前はいい女なんだ。素直に恋愛しろよ。お前が幸せになってくれないと俺も前に進めない」

「嘘言わないで…私を悪者にするつもり？」

皮肉を言って英隆を睨む。
涙に気付いた英隆はそっと手で涙を拭い梨香子を見つめる。

「本気で、今でも愛してると言ったら、梨香子はどうする？」

「そんなわけな…」

最後まで言い終わらないうちに唇が塞がれた。
柔らかい感触に一瞬目を見開き固まってしまった梨香子は慌てて英隆の胸を押すとあっさりと解放された。
何するの！と叫びたいところを押し殺して手の甲で唇を拭って英隆を睨む。

「…私たちはもう終わったでしょう？こんなことして何になるの？」

「キスしたくなるほどいい女だって教えてやりたかった。もう、信じることに怖がるなよ」

「……」

「ほら、もう家に帰れ。今度お前を抱きしめたらキスだけじゃすまない」

引きとめたのは英隆なのにおかしなことを言う。冗談でしょ？と驚きと呆れの混じった顔で見れば、英隆は肩を竦めとぼけた顔をする。
おかしなことばかり言って、今日の英隆は変だ。
これ以上付き合ってられないと梨香子は何も言わずマンションのエントランスに入って行った。

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