大人の女に手を出さないで下さい
「座ろうか、梨香子さん」

椅子を引いて待ってる蒼士に従って椅子に座り蒼士も向いに座った。
蒼士は車だからミネラルウォーター、梨香子は白ワインで乾杯した後は静かに食事を進めた。
蒼士はいつ話をしだすのかと構えていたが一向に話す様子が無くて梨香子は堪らず聞いてみた。

「蒼士くん、話、何かあるんじゃないの?」

「ああ、いや…。せっかくの料理が冷めるからまずは食事を楽しもう」

誤魔化された気がするが確かに美味しい料理を差し置いて深刻な話は出来ないだろう。
梨香子も頷いて料理を楽しむことにした。
ちらほらと話をして料理も最後のデザートも平らげ満足していると蒼士が部屋に備え付けのコーヒーサーバーでコーヒーを入れてくれた。

「やっぱり、いいな…」

「え?なに?」

芳ばしい香りを楽しんでいると一口コーヒーを飲んだ蒼士がテーブルに両肘を付け頬杖を付いた。

「ここ2ヶ月逢えなくてホントはやきもきしてたんだ。会わない間に梨香子さんがどっかの誰かに口説かれてないかと思って」

「え?そんなこと…あるわけないじゃない…」

蒼士の父敏明や元夫の英隆の顔が思い浮かばれて否定していた言葉は尻すぼみになる。

「それよりどうしてたのこの2ヶ月。仕事が忙しかった?」

誤魔化すように質問を返すと蒼士は頭を描いて苦笑いを浮かべた。

「あ~いや、忙しいのは忙しかったんだけど…ちょっと事情があって」

これは仕事だけじゃないなと梨香子もピンと来た。
仕事じゃないとすると噂の通り愛想が尽きたのか、彼女でも出来たのか…あまり梨香子にとってはいい話ではないんだろう。
言い淀んでる蒼士にもういっそこうなったら自分から言ってしまえと梨香子は話し出した。

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