大人の女に手を出さないで下さい
ここに来て蒼士に幻滅されたくないと乙女心が顔を出し最後の言い訳だと祈るように覆いかぶさる蒼士に言った。

「英梨紗が…待ってるから…」

お構いなしに鼻から頬にキスを落とされ、そして耳朶を甘噛みされてピクリと肩を震わせながら言うと蒼士はピタリと止まった。
無言でゆっくりと頭を上げた蒼士は梨香子と目が合うと苦笑いを零す。

「…だよね」

残念だ、とでも言うように困った顔をした蒼士は体を起こし梨香子も引っ張り上げた。
熱の籠もった瞳も冷静さを取り戻し梨香子はこっそり胸を撫で下ろした。

英梨紗が家で待ってることは蒼士もわかってる。だから一緒にワインを飲まずミネラルウォーターで我慢したのだ。
それでも離れ難い想いの方が強くて梨香子を困らせてしまったとばつが悪そうに頭を掻く。

「英梨紗ちゃん首を長くして待ってるだろうから、そろそろ帰ろうか」

「そ、そうね」

心臓を落ち着けるように乱れた髪の毛を手櫛で整えてるとおや?と思う。

「なんで首を長くして待ってるわけ?」

「それは…あの日、みんなを集めて話をしたときに宣言したから。俺が梨香子さんにプロポーズするって」

「え?もしかして英梨紗だけでなくプティビルのスタッフ全員知ってるの!?」

うんと頷く蒼士を見てだからみんな急に態度を変えて頑張れとか言ってきたんだと合点がいった。
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