大人の女に手を出さないで下さい
「あ、蒼士くんお疲れ様」

「遅くなってごめん」

蒼士は側に来ると当然のように梨香子の肩を抱きこめかみにキスをした。
その光景に驚いた元倉は言葉を失う。

「あ、ごめんなさいね。こちら三雲蒼士くん。このプティビルを管理してる三雲不動産の副社長なの」

「そして梨香子さんの婚約者でもあります。よろしく」

「え、婚約者?」

「ええ、婚約者です」

蒼士は笑顔で元倉に握手を求めた。
嫌そうに差し出された手を強引に握り力を込める。
二人の間にばつっと火花が散ったように見えたのはまぼろしか?

何を話してたの?と自然と梨香子の隣に座り用紙を覗き込んだ蒼士にツアーの内容を説明する。

「へえ、いいな。俺も行きたい」

「え?いや、部外者は一緒には…」

「でもここにご家族で参加もOKって書いてあるけど?」

目聡く説明欄を見ていた蒼士はそこを指さす。

「俺は梨香子さんの婚約者だから家族も当然だよね?」

流し目で言われ一瞬口ごもる。でも、と、言い募る元倉を余所に蒼士と梨香子は英梨紗も一緒に3人で行こう。楽しそうね。なんて盛り上がってる。

「あ、でも費用が…こんなにさすがに出せないわ」

料金はそれなりに高い。
英梨紗と二人分を出すとなると貯金を崩しても足りるかどうか…。
しゅんと肩を落とす梨香子に蒼士は笑って言った。

「そんな心配いらないよ。俺が全部払うから」

「そんなこと!してもらうわけにわいかないわ!」

「梨香子さん、もう俺たち家族だろ?遠慮しないで」

「でも…」

困り顔の梨香子に蒼士はニコリと笑い手をぎゅっと握った。

「俺が梨香子さんと行きたいんだ。いいだろ?」

最近の蒼士の常套句だ。首を傾げていいよねと目で訴えてくる。
それに弱い梨香子はずるいと思いながらもうんと小さく頷いた。

「じゃあ俺達3人で参加ということで」

「はい…」

渋々頷いた元倉に蒼士は不敵な笑みを浮かべた。
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