大人の女に手を出さないで下さい

震えた声を出す梨香子に英梨紗は堪らず涙を流した。

「う…うう～ママ～！」

しがみ付き泣きじゃくる英梨紗を梨香子は背中を摩り大丈夫だよと何度も声を掛けた。
蒼士はその様子を戸口で見守る。
蒼士と梨香子の婚約を知った時も泣きじゃくっていたが、うれし泣きとは違い悲痛な泣き声は蒼士の胸も苦しくなってくる。
やっと落ち着いて来た頃、梨香子は英梨紗の顔を覗き込んだ。

「落ち着いた？何があったか話してくれるかな？ママは英梨紗の力になりたい。何でも話して？」

「……」

虚ろな目で何度も口を開いては閉じを繰り返す英梨紗を辛抱強く待った。
やっと意を決したように顔を上げた英梨紗は今にも泣きだしそうだ。

「ママ…あたし…赤ちゃんが出来たかもしれない…」

「……え？…どういうこと！？えっ！？」

さすがに予想だにしない英梨紗の言葉に梨香子は叫んだ。

「あ…赤ちゃんって！そう簡単にできないのよ！英梨紗はそういうことをしたの！？」

「梨香子さん！」

両肩を抑え込み梨香子は英梨紗を揺さぶる。
蒼士は堪らず止めに入ったが梨香子はそれどころではない。

「相手は！？相手は誰！？今すぐ連れてきなさい！英梨紗をこんなに泣かせて許せない！」

「た、たっ君は何も知らない！たっ君は悪くない！」

「たっ君って彼氏よね！？彼氏のくせに何も知らないの！？まさか、やるだけやって英梨紗を苦しめて自分は知らんぷりなの！？英梨紗の事が好きならこんな目に合せないでしょ！」