大人の女に手を出さないで下さい
一気に言い終えた梨香子は鼻息荒くふんと鼻を鳴らす。
呆気にとられた豊子とは打って変わって蒼士と慎太郎は声を出して笑った。
英梨紗は逆に恥ずかしくて顔を真っ赤にして俯いた。

「愛情深い素晴らしいお母様だ。蒼士、いい人見つけたな」

「でしょう?娘をこよなく愛す梨香子さんだから俺は惚れたんだ」

「な、何言ってんのよ蒼士くん…」

今度は梨香子が赤くなる番。
熱弁を振るったこともさることながら蒼士の惚気に顔を上げられない。

「ママ、ありがと」

横でこっそり英梨紗がお礼を言って真っ赤な顔をした二人はクスリと笑った。

何故だか和やかになった雰囲気になると豊子に夕飯を食べて行けと言われご馳走になった。
その内に琢真の兄淳史が帰って来て挨拶をかわす。
琢真の腫れた頬を見て淳史は「もっとうまくやればいいのに馬鹿正直だな」と言われ蒼士に小突かれてた。
蒼士の話によると淳史の方は母の干渉も上手く交わしそれなりに遊んでるらしい。

「琢真、頬の腫れはだいぶ引いたようだな」

「うん…殴られたのなんて小さい時以来だ」

頬を摩る琢真に蒼士は思わず自分の頬を触る。

「親父の一発は効くだろ?俺もつい最近喰らったところだ」

「え?蒼士お兄ちゃんも?」

「まあな」

父親の一発は気付け薬にはもってこいだった。
気の迷いを起こしかけた蒼士の目を覚まさせるには十分の威力があった。
お蔭で一か月近く青痣が消えなかったが…。
琢真も頭に血が上った状態から父に殴られ一気に冷静さを取り戻した。
有難いとは思うが金輪際喰らいたくない痛みだ。
蒼士と琢真はお互いを見やり苦笑いをするのだった。
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