大人の女に手を出さないで下さい
自分のこの感情が何なのか初めは気付かなかったけど、彼女に初めて会ったあの日、確かに雷とは違う何かが蒼士の体に落ちた。
これが一目惚れというものなんだとトミちゃんに教えられた時は衝撃を受けたものだ。
それは一時の気の迷いなどではなく、顔を合わす度、話をする度惹かれていくのが手に取るようにわかった。
バツイチだろうが娘がいようが関係ない。
梨香子が今はフリーだということを幸運に思っている。

彼女の心が自分に向いてくれないかと時間を作ってはこのプティビルに足繁く通っている。
だいぶ年上の彼女は、いくら誘ってもいつもつれなく相手にしてくれない。
正直、蒼士は今まで恋愛で苦労したことなどなかった。
声を掛ければ大抵の女性は誘いに乗ってきたし、告白される方が多かった。
こんなに初めから手こずったのは初めてだ。




「えー!もう!トミちゃんったらいつの間に!…仕方ないわね…」

何やらトミちゃんに耳打ちされた梨香子が蒼士をちらりと見ながらため息を付いた。

「みんなと行くならいいわ」

「………えっ!ホント?」

思わず驚いて聞くと、梨香子はちょっと口を尖らせながら渋々頷いた。

「トミちゃんが娘をもう呼んじゃったっていうし、しょうがないから行ってあげる」

「あ!じゃあ早速店を予約するよ」

「2階の居酒屋ぼたんにしてね!あたしたちの行きつけだから」

ウィンクするトミちゃんにグッジョブ!と小さく親指を立てた蒼士は梨香子の気が変わらないうちに店に予約しようと電話をした。
本当なら梨香子と二人雰囲気のいいレストランに行きたかったがこの際贅沢は言ってられない。
居酒屋ぼたんはまだ行ったことが無かったから速OKした。


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