大人の女に手を出さないで下さい
朝の目覚めはとても良かった。
目が合った蒼士と挨拶を交わし、昨日のことでちょっと気恥ずかしかったがぐっすり寝たせいか気分もすこぶる良い。
身体もだいぶ回復して普通に歩ける。
蚤の市では掘り出し物がたくさん出てきて梨香子はウキウキしていた。
特に目を付けたのがアンティークレース。
全てが手編みだというそれは細長いのから幅の広いのまで色々で手の混んだ図柄が素晴らしかった。
「とっても素敵!これなんてテーブルクロスにしたら一気に雰囲気変わるわね」
「そうだね、でも、こうしたら…」
薄いオーガンジーの縁取りに綺麗な刺繍が施された幅広の布地を蒼士は梨香子の頭に被せた。
それはまるで花嫁のベールのようで蒼士は幸せそうに梨香子を見つめた。
「凄く、似合うよ」
「そ、そう?じゃあこれも買おうかな」
熱い目で見つめられて梨香子は思わず目を逸し、そそくさと頭からベールを取り購入した。
楽しい時間は何で早く過ぎていくんだろう。
気付けばもう帰るために空港に向かうバスに乗っていた。
持ち帰る戦利品を他のツアー客と見せ合いながら楽しかった日々を思い浮かべる。梨香子にとって初めての海外旅行は刺激的で楽しく思い出深いものになった。
その中でもやはり蒼士と漸く結ばれた事が一番の思い出だろう。
またいつか、蒼士と来ることが出来たらいいなと流れていく景色を見ながら感慨にふけっていた。
あ、英梨紗と、トミちゃんやツクヨミさんも一緒だったら楽しいだろうな。
ハルちゃんも今度は連れて来ないと拗ねちゃうかな。
当然みんなにもたくさんお土産を買い込んだ梨香子は日本で待ってる大切な人達の顔を思い浮かべふふっと静かに笑った。