大人の女に手を出さないで下さい
付き合ってる恋人同士ならそれはとても理解しがたい約束かも知れないけど、梨香子と蒼士はまだ恋人同士ではない。

「彼の出会いを妨げないためよ。今はなぜか私に好意を寄せてくれるけどそれも一時のこと。きっと彼にはもっとふさわしい彼女が出来るから」

「え…店長はそれでいいんですか？」

「いいのよ。私は彼の通過点の一つにすぎないと思ってるから。だってそうでしょ？こんなおばさんに本気で恋するなんてありえない。自分が一番わかってるつもり」

にこりと笑えばハルちゃんはまじまじと梨香子の顔を見つめ、何か言いたそうにしていたけど諦めたのかひとつ息を吐いた。

「わかりました、もう何も言いません。ただ店長…」

「ん？」

「店長は素敵な女性で私の憧れです。もっと自分に自信を持って素直になっていいと思いますよ？」

「！…あらやだ！ハルちゃんにそんなこと言われたら照れちゃうじゃない！」

まさかそんなことを言われると思ってなくて一瞬虚を突かれたように目を丸くした梨香子は、真剣に言ってくれるハルちゃんに茶化すように明るくバシッと彼女の肩を叩いた。
渋い顔をするハルちゃんに痛いですよと文句を言われごめんごめんと苦笑いで今度はその肩を摩る。

「でも、ありがと。ハルちゃん」

梨香子が静かに微笑むとハルちゃんは照れて頬を真く染めていた。

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