大人の女に手を出さないで下さい

過去は記なり

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最近、忙しくてなかなか梨香子に逢いに行けない蒼士はイライラしていた。
しかも逢えない間にあの元倉と食事に出かけたとトミちゃんから報告を聞いて気が気じゃない。
ただでさえ友人以上になかなか昇格させてもらえない上に梨香子に気があるらしい元倉との食事なんて横からかっさらわれた気になってしまう。
しかも梨香子は父の敏明とも食事をしている。
父が何を考えているのかわからないが悠長にしてられないと思うのに、転職したばかりでまだ慣れない仕事にも追われイライラは募るばかりだ。

「蒼士、ちょっといいか?」

「あ?ああ…」

副社長室にノックも無しに入ってきたのは社長で父でもある三雲敏明。
尊敬してる父だが今は梨香子の憧れの男としてライバル心の方が先に立ってしまう。
態度の悪い息子に気にも留めず敏明が入ってくると後ろに見慣れない男性がいるのに気付いた。

「新しく我社の顧問弁護士に着任された速水先生だ。彼は香山先生のお墨付きの敏腕弁護士だそうだ」

速水英隆(はやみひでたか)と申します。尊敬する香山先生の後を継ぐことになりました。敏腕…とまではいきませんが尽力を尽くす所存です。どうぞよろしくお願いいたします」

敏明の紹介に謙遜し丁寧に挨拶した彼は、ほっそりとした輪郭に切れ長の目には知的そうな眼鏡を掛け、整った顔立ちをしている。一見冷たそうな印象を受ける壮年の男性だった。
そう言えば今まで担当していた顧問弁護士の香山先生が70歳を過ぎ引退するということで後任弁護士が来ると聞いていた。
握手を求められ立ち上がると体つきも中肉中背で背は蒼士と同じくらい。視線が合うとえも言われぬ男の色気も漂っている。
素直にいい男だなと思った。

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