大人の女に手を出さないで下さい
「今日は私の後継者を紹介しようと思ってね。息子なんだが、今まで証券会社に勤めていたんだが私の跡を継ぐために辞めて三雲不動産の副社長に就任したんだ」

ああ、息子さん。確かに目鼻立ちがどことなくオーナーに似ている。
オーナーが若かった頃はこんな感じなのかとついじっくり見つめてしまった。

「はじめまして、三雲蒼士(みくもそうし)と言います」

彼が差し出した名刺を受取ろうとした時、ピカッと一瞬辺りが光りに包まれた。
え?と思った次にはドドーンッ!!と大きな地響きが鳴り響く。

きゃあああああ!!

耳元で大きな悲鳴を上げたトミちゃんが梨香子に抱き着きぎゅうぎゅう締め上げてきた。
くっ苦しい!

「あ、凄い雷でしたね…大丈夫ですか?」

ぶるぶる震えるトミちゃんを引き気味で見つめながら気遣わしげに聞いて来たオーナーの息子。

「あ~凄い音でしたね~。トミちゃんもう大丈夫だよ、苦しいから離して!ハルちゃん!大丈夫~?」

梨香子は冷静に縋りつくトミちゃんを引き剥がし店の奥にいるハルちゃんに声を掛けた。

「だ…大丈夫ですうう…」

声はすれども姿は見えず。
どうやらハルちゃんはカウンターの下でしゃがみ込んでるようだ。
周りの店舗でもお客さまやスタッフががやがやと今の雷は凄かったと話しているよう。

「さすが国永さんは落ち着いてますねえ」

オーナーが感心したように頷いた。
オーナー息子も意外そうな顔で聞いてくる。

「雷は平気ですか?」

「ええ、まあ。周りがこう騒ぐものだから逆に冷静になっちゃうというか…」

娘が雷が大嫌いで轟音が鳴り響く度に騒ぐものだから落ち着かせるために梨香子は怖がってはいられなかった、というのがほんとのところ。
元々嫌いではなかったから雷は全然平気だ。

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