このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
呑気にも見慣れない光景に目を輝かせている様子のおばあちゃん。元気そうな様子に少しほっとしたものの、私は極度の緊張から解き放たれたばかりで足に力が入らなかった。
「ーー百合。」
頭上から降る穏やかな声。
顔を上げると、少し不安げな律さんの瞳と目が合った。
「…大丈夫か?」
「は、はい…。律さんは…?」
「無事だ。紘太くんが盾になってくれたからな。」
駆けつけた警察官に事情を説明している様子の紘太と奏さんの姿が目に映る。紘太をこの場に連れてきてくれたのは奏さんだったらしい。怪我人はゼロだ。
ーー良かった。
誰も傷付かずに済んだ。私の大切なものは、何一つ失われていない。
その時、ふと、申し訳なさそうな律さんの声が聞こえた。
「…百合。この家に、“ちりとり”はあるか。」
「え…?」
彼の視線の先にあるのは、路地に散らばった“偽物の一万円札”。彼の意図していることを察した私は、思わず笑みが溢れた。
ーーこうして、窮地に追い込まれたと思われた“誘拐事件”は、心強い味方たちの協力により、事なきを得たのだった。