このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
一番声を張り上げた紘太に、奏さんは、ずいっ!と距離を詰める。
「この前の事件の日、君が百合ちゃんと律を守ろうと男に殴りかかったあの“瞳”は良かった。君はアクションの素質があるし、容姿も映える。…どうだ?近々、ハルナホールディングスが提携する“某ライダー系子ども向け番組”のオーディションがあるんだけど。」
「?!い、いや、俺はそういうのはちょっと…」
戸惑いを隠せない紘太。…さすがカリスマ社長。あの事件の最中に、原石となりうる紘太へ敏感に目をつけていたようだ。当人の紘太はじりじりと後退りをするが、奏さんはにこやかな笑みを崩さない。
「大丈夫だ。俺が君をバックアップする。期待の新人だとプロデューサーに声をかけておこう。」
「…そういうのは、俺みたいな生半可な奴が出ていいオーディションじゃないと思います。…それに、なんか、“出来レース”みたいな真似は納得できないっていうか、失礼っていうか…」
「はは…!カッコいいね。ますます気に入った。」
“義兄弟”の親睦を深めようとする奏さんの隣で、“ねえちゃん…!”と助けを求める子犬のような紘太の懇願が見える。
ーー諦めなさい。榛名家の人間は一度口説き落とすと決めたら諦めることを知らないのだ。律さんによってまんまと口説き落とされた私が言うのだから間違いない。…もしかしたら、“逢坂(ウチ)”が押しに弱いのが原因なのかもしれないが。
なんだかんだ賑やかな日常がかえってきて、ほっ、とした私。そんな私たちを見て穏やかに笑った律さんが、優しく私のキャリーケースを引いた。
「じゃあ、そろそろ行くか。新幹線の指定席を逃すわけにはいかないからな。」
「!もうそんな時間ですか…!急がなきゃ…!」
キャリーを引き、ゆっくりと歩き出す律さん。さりげなく繋がれた手に、どきん、と胸が高鳴る。
ーーこうして、ひらひらと手を振る奏さんと、彼に肩を組まれながら逃げ出す算段を立てている紘太に見送られながら、私たちははじめての“二人旅”へと出発したのだった。