このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~

彼のセリフに、ピタリ、と動きを止める私。クールに対応されていると思って油断していた。まさか、“後で入ろう”というのは、一緒に、ということか?

思わず彼の顔を見上げてしまった私に、律さんはふわり、と甘い笑みを見せる。

…うわ、ダメだ。そんな嬉しそうな顔をされたら何も言えなくなる。


一瞬で彼の色気にやられ、もじもじし始めた私。それを察しても気付かないフリをしてくれる彼は大人だった。

やがて、荷物を置いて一呼吸ついた頃、律さんはちらり、と壁の時計を見やり、口を開く。


「夕飯まで結構ゆっくりできるな。時間があるうちに、大浴場でも行っておくか?」

「…!行きたいです!」


ぱぁっ!と顔を綻ばせて頷く私。事前に、律さんから、ここは絶景の露天風呂と美肌効果のある源泉が有名な旅館だと聞いていた。ぜひ、大浴場にあるすべての温泉を制覇したいところだ。時刻は午後四時。夕食前の入浴にはちょうどいい。

すると、律さんは私に気を遣ってか、チャリ…、と部屋の鍵を持って立ち上がった。

女性の方が何かと時間がかかることをお見通しな彼は、密かにスキンケアやメイク用品などを準備する私に優しく微笑む。


「俺ものんびり入るから、ゆっくりしてきていいぞ。…百合の浴衣、楽しみにしてる。」


ーーそういう貴方の方が、きっと物凄い破壊力なんでしょうが…

と、そんな台詞はのみこんで、私は浴衣を抱いて照れ笑うように頷いたのだった。

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