このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
ーーすっ。
差し出された手。
ゆっくりと取って歩んだ先で、律さんは私と向かい合った。神父さんと誓いを交わし、彼はそっ、とヴェールを上げる。
その時。くすり、と笑う律さん。
きょとん、とする私に、彼は二人にしか聞き取れない声で楽しそうに囁く。
「…また百合がいなくなったらどうしようかと思っていた。」
「…!も、もう逃げたりしませんよ。」
「ふふ…」
からかうように告げられたセリフに、急に過去の自分が恥ずかしくなる。
包み込むように私の頬へ手を添えた彼は、切れ長の瞳をわずかに細め、甘く囁いた。
「もう逃すつもりはない。…覚悟しておけ。」
ーー“とっくに貴方に捕まえられています”、なんて返す暇もなく重ねられた唇。
いつものキスとは違う一瞬だけ触れた熱がもどかしくて、唇を、む…、と食むと、彼は余裕の表情で微笑んでいた。
二人並んで歩き出すと、拍手を捧げるゲスト達。涙ぐむおばあちゃんと、笑顔の紘太。そんな二人を支えながら穏やかな表情でこちらを見守るのは奏さんと日笠さんだ。
律さんが結んでくれた出逢いに、胸がいっぱいになる。
ブワッ…!
舞い散る紙吹雪と同時に、空高く投げたブーケ。
ーーこうして、私は祝福の光を浴びながら、律さんと共に“あの日のお見合いの一歩先”へ踏み出したのだった。
*終*