このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
やはり、返事はない。
しかし、一瞬止まった呼吸を俺は見逃さなかった。
ーーするっ…
布団の中で足を絡め、抱き込んだ腕でゆっくりと彼女の背中を撫でる。容赦なく、そっ、とパジャマの裾から手を差し入れ、誘うような手つきで肌に触れるが、彼女は黙ったままだ。
きめ細やかで柔らかい感触に昨日の熱を思い出し、思わずこちらの理性が飛びそうになるが、そこは、ぐっ、と堪えて彼女を見つめた。
(…ふぅん。まだ狸寝入りをするつもりとはな。)
無言の攻防戦に、ついスイッチが入る。悪戯心が燻り、さらり、と彼女の長い髪を耳にかけた俺は、そっ、と百合の耳元へ唇を近づけた。
ーーちゅ…
「…ひゃ…っ!」
無防備で可愛らしい声が小さく聞こえた。
こちらまで心臓の音が聞こえるくらい動揺しているらしい彼女に、思わずくすくすと笑ってしまう。ぴょこ、と体を跳ねて目を開けた百合。彼女は、不意打ちのキスにひどく驚いたらしく、目をパチパチさせながら俺を見上げていた。
「俺の勝ちだな、百合。」
「…な、何の勝負ですか…」
ふっ、と勝ち誇ったようにそう告げると、降参したようなトーンで返事がきた。「おはよう」と髪を撫でる俺に、「おはようございます…」と、ぎこちなく擦り寄る彼女は、まだ半分寝ぼけているようだ。
「…まだ眠いか?」
「…はい。…その、いつから気付いてました…?」
「百合が俺のシャツを掴んできたところからだ。…寝てるフリを決め込んでいるようだったから、からかいたくなってな。」
「…耳はずるいですよ…」