このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
なんだ、この可愛い生き物は。
素直になれない性格の百合のことだ。恥ずかしがって、甘えられないのもわかる。だからと言ってこんな前触れもなく爆弾を落とされては、俺の心臓が持たない。
思わず、ぎゅ…っ、と抱きしめると、彼女は驚いたように体をこわばらせた。しかし、やがて、ふっ、と肩の力を抜き、やや遠慮がちに俺の背中に手を回す。
「…満足したか?」
「…ふふっ…」
気の抜けたような笑い声も、俺の腕の中にすっぽりとおさまる華奢な体も、全部が愛しい。
彼女は、きっと知らないのだ。
こうやって晴れて夫婦となった後、ずっと俺から遠ざかろうとしていた彼女が、ぽつりぽつりとこぼす本音に、どれだけ俺が心揺さぶられているか。百合が俺を想うよりも、きっと、ずっと深い気持ちで、百合を想っているということも。
百合はいつも“律さんには敵わない”と言っているが、それはこっちのセリフである。俺からしてみれば、“百合だけには敵わない”。
首まですっぽりと羽毛布団にくるまった彼女は、くすり、と笑みを浮かべて小さく呟く。
「…あったかいですね。」
「…あぁ。…俺が起こすまで、もう少し寝てろ。」
安心しきったように目を閉じる彼女に、頬が緩む。この無防備な妻の寝顔を近くで見れるのも、旦那の特権だ。
(…冬も、案外悪くないな。)
彼女の行動一つで、ころっ、と意識が変わる。自分で言うのもなんだが、“ちょろい男”だ。
ーーこうして、穏やかな朝に温もりを分かち合った俺は、彼女への愛しさを実感しながら、前よりも冬が好きになれたような気がしたのだった。
*完*