このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
あまりにも予想外の展開に、開いた口が塞がらない。
一方、動揺を微塵も感じさせない彼は、腕を組んで小さく息を吐く。
「昼間、“水仙の間”でお前を待っていたのに一向に来る気配がなくてな。スタッフに聞かされた時はさすがに驚いた。“相手の女性がいなくなりました”って。」
「うっ…!!」
どうやら、勘違いをしていたのは私の方らしい。
予定されていた部屋は、“水仙の間”。おばあちゃんに聞いていた“胡蝶蘭の間”は、全く別のお見合い会場だったのだ。つまり、私のお見合い相手は、昼間のオッサンではなく、“目の前の彼”。
全てを理解すると同時に、サーッ…、と血の気が引いた。
「す、すみませんでした…!てっきり、すごく歳上の人と結婚させられることになったんだと思って…!」
「よかった。俺のことが嫌で逃げ出されたのかと思ったから。」
「そんなことないです!お見合いに乗り気じゃなかったのは否定しませんが…。本当に申し訳ないです。」
「もう謝らなくていい。“嫁”の可愛い勘違いをいつまでも咎めるつもりはない。」
「え?」
思わず、口から出た上ずった声。
状況がつかめない私に、彼も不思議そうにまばたきをしている。途端にざわざわと騒ぎ出す胸。お互いの間に“大きな認識のすれ違い”が起きている嫌な予感が、数秒後に的中したのだ。
「あの、“お見合い”って、破談になったんですよね?」
「?まさか。破談になるわけないだろう。」
「え?」
「俺はお前を嫁にすると決めた。それを譲るつもりはない。」