このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
低すぎない甘い声が、耳をくすぐる。
平然と“匂わせ発言”を口にする彼に、私は思わずガタン!と席を立ち上がった。ラウンジを利用する社員たちの視線が集まり、はっ!とする。
一方、彼は相変わらずしれっとしたクールな表情だ。本当にこの人は、心が読めない。
「…確かに、清算が済んでいたのをいいことに、無断で部屋を出て行ったのは悪いと思っています。でも、ちゃんと“謝罪”の置き手紙を残しました…!」
「あぁ。ちゃんと見たよ。…読み終わった後、飼い主の帰りを待つペットの気持ちがよくわかるような気がした。」
「す、すみません…」
つまり、“置いていかれたようで寂しかった”ということだろうか。
まだ恋人にもなっていない私に向かってそんなことをさらりと口にするなんて、やはりこの男は心臓に悪い。
「ーー副社長。午後は二時から打ち合わせですので、それまでに戻ってきてくださいね。それでは奥さま、失礼いたします。」
気を使うように席を立った日笠さんは、すっ、と私に会釈をしてラウンジを出て行く。