このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~


(私は、“奥さま”なんて大層なものでは…)


何度も訂正の機会を逃し、結局その呼び名が定着してしまった。カタン、と目の前の席についた彼は気にしている様子もないが、私はなんとなくそわそわしてしまうのだった。

やがて、モデル並みのスタイルの彼女の背中が見えなくなった頃。私は小さく息を吐いて椅子に腰を下ろす。


「…えーっと…、榛名さんはどうしてここに?」


おずおずとそう尋ねると、頬杖をついた彼は私を覗き込むように見つめた。


「お前を口説きにきた。」

「へっ?!!!」

「昼、これからだろう?一緒に食事をしようと思ってな。」


な、なんだこの強引なように見えてスマートな男は。今までもこんな風に数多の女性を落としてきたのだろうか。

破壊力のある甘い言葉が、こんなにもすらすら出てくるなんて信じられない。


(流されちゃダメよ、逢坂百合。彼は“本気で”私のことを好きだと言っているわけじゃない。ただのお見合い相手に暇つぶしの面白さを見出してるだけだ。)


ただでさえ、男運のない人生を送ってきた。

アラサーに差し掛かっている今、結婚する予定のない男に割いている時間なんてない。行き遅れたら、それこそ本当の“オッサン”とまた見合いをセッティングされる羽目になる。

このイケメンは、きっと女性に困ったことはないだろうし、私に構うのは、“箸休め”程度なのだろう。私に“彼に好かれる理由”がない以上、彼が何を言っても説得力を感じない。

第一、私は“お金持ち”を信用できない。“お金”で人生を狂わされるのは、もうたくさんだ。

< 25 / 168 >

この作品をシェア

pagetop