このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~



ーーと。

お見合い当日を迎えるまでは、そう思っていた。


「百合ちゃん、とっても綺麗よ…!娘の若い頃にそっくりだわ〜!」


普段はそうそう来ることもないだろう庭園付きの豪華な旅館。振り袖を着た私の隣で、手を合わせて拝み出す祖母。

襦袢を着て、着物を羽織り、帯を締める。

二人体制で一枚ずつ布が体に巻きつけられる度に、だんだん心が冷静になってきた。


(やっぱり、無理…!!!顔も知らない人と結婚だなんて!!!お願い、誰か嘘だと言って…っ!)


「ねえちゃん、顔色悪いよ。帯締めすぎなんじゃない?」

「…そうじゃない、そうじゃないの…」


スーツ姿の弟、“紘太(こうた)”は、係の人と部屋を出て行く祖母の背中を見送り、目を細める。


「…やっぱり。ねえちゃん、本当は乗り気じゃないんでしょ。」

「…!」

「お見合いって言っても、相手の男は結婚する気満々らしいし、ばあちゃんも“あんな調子”だろ?このままじゃ、本当に名前しか知らない奴に嫁ぐことになっちゃうよ?」

「ぐっ…」


グサリ、と心に刺さるセリフ。

不安げな紘太は、パーマがかった黒髪をくしゃり、とかきあげる。


「俺の学費のことなら気にしないで。家の借金も俺がなんとかする。深夜に入れる居酒屋のバイト増やしたし、最悪、学校辞めて働くこともできるから…」

「っな、何言ってんの…!それはダメ!あんたはちゃんと大学行きなさい!」


身内目線の贔屓を差し引いても、それなりに容姿の整った弟。だが、バイトに明け暮れてろくにデートの時間も取れない上に、稼いだお金が何一つ手元に残らない貧乏生活のため彼女にフラれたと小耳に挟んだ。

これ以上、紘太を道連れにするわけにはいかない。


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