このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
『逢坂様、お相手の方がお見えです。お祖母様は今から着付けですので、先にお部屋に向かってください。』
綺麗なお姉さんの呼びかけに、はっ、とする。
それと同時に、どきん、と未だ嘗てないほど心臓が鈍く音を立てた。
ーーギシ…
足袋が、廊下を軋ませる。
隣を歩く紘太も、心なしか表情がかたいようだ。
「大丈夫よ、紘太。私決めたから。おばあちゃんの話ではいい人らしいし…。きっと、会えば好きになれるわ。」
「…。」
紘太は、納得のいかないように眉を寄せていたが、やがて小さく息を吐く。
もう、後戻りは出来ないんだ。
私は今日、二つ年上の彼の元に嫁ぐ。
「紘太。どこのお部屋だっけ?」
「えーっと…。ばあちゃんの話では、“胡蝶蘭の間”って…」
ーーと。
きょろり、と紘太が辺りを見渡し、盆栽が整えられた庭園の向こうに、目的の部屋を見つけた
次の瞬間だった。
『…〜〜……』
視界に映ったのは、胡蝶蘭の間に入って行く男の影。
しかし、それは、思い描いていたシルエットとは似ても似つかぬ姿だった。
(…は、ハゲてる…?!!!!!!)
グレーのスーツに、若干薄い後頭部。
ハンカチで汗を拭いているらしい背中は、まさにオヤジ。その出で立ちは中肉中背で若さがなく、イケメンの気配も感じられない。一瞬で機能を停止する思考と、ひゅっ、と音を立てた喉。思わず足が止まった。
ダメだ、ここで叫んではいけない。
落ち着け。
心を穏やかに……
「な、なんだ、あの男?!!どう見たって中年のオッサンじゃん?!!!!」
「ちょっ!静かに、紘太…っ!!!」