このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
やがて、気付けば私のアパートの近くまで来ていた。
築三十年のアパートにそぐわないスタイリッシュな高級車が、音もなく側の路地に停車した。ゆっくりとシートベルトを外した私は、なるべく車の中に土を落とさぬよう、足元に気を配りながらドアに手を伸ばす。
「送って頂いて、ありがとうございました。ご飯もご馳走さまです。」
「あぁ。」
「えっと…。それじゃあ…、お、おやすみなさい。」
ぎこちなく交わされた会話。別れの言葉にしてはシンプルだ。
次の約束がない以上、もう当分会わなくなるのに。
(…夢のような私のシンデレラストーリーも、今日で終わりか。)
ーーと。
やや自嘲気味に、ふっ、と口元が緩んだ
その時だった。
「ーー百合。」
車から降りようとした私を彼が引き止めた。
シャツの上から腕を掴む彼は、そのまま流れるように私を引き寄せる。
「っ!!」
トン、と、思わず彼の肩に触れると、至近距離で二人の視線が重なった。
吸い込まれそうな瞳。
いつもとは違う、色気を帯びた彼の声が耳をくすぐる。
「ーー帰したくない。」
「!!」
「…って言ったらどうする?」
「帰りますよ!!!っていうか、腕、離してください…!」
「手を離したら、お前はこのまま逃げるだろ。」
「っあ、当たり前です…っ!!」