このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
クローゼットの中から選別した紺のワンピース。袖と裾は白く、襟元は鎖骨が見えるくらいのピューリタンカラーだ。
以前着たのは、高校の同窓会だったか?
記憶が曖昧なほど昔に着たワンピースだが、先日クリーニングに出して着てみると、サイズは変わっていないらしく、ほっ、と胸を撫で下ろした。低めの黒のパンプスと、ポシェットを合わせると、なんとか“清楚なお嬢様”感が出せる。
(こういう服、着なれないからなんだかソワソワするなあ…)
やがて、家族との電話や家事を済ませ、刻々と約束の時間が近づいてくる。何度も鏡を確認して念入りにメイクを仕上げた。いつもより少しだけリップとチークが濃いことに気づき、無意識に気合いが入っている自分が恥ずかしくなる。
ーーと、その時。テーブルの上に置いていたスマホが、ブルル、と震えた。ぱっ!と飛びつく私。画面に表示されたのは、律さんからのメッセージだった。
“アパートに着いたぞ。下で待ってる☺︎”
(…き、来た…!)
何度も何度も確認したはずなのに、鏡の前で前髪を整えてしまう。“初デート”の緊張感に圧され、ポシェットを忘れかけた私は、玄関の前で深呼吸をして鍵を開ける。
共有のエントランスに出て辺りを見回すと、庶民的な戸建てとアパートが並ぶ住宅街にそぐわない白のレクサスが停車していた。そして、その側にはスマホ片手に車体に寄りかかるようにして佇む、すらりとした男性のシルエット。
…アレだ。分かりやすいにも程がある。