Q.I(きゅうあい)~短気で無垢で、天使な君を~
第3話 元空手少年の憂鬱
俺が空手道場に通い始めたのは、小学3年生の頃だった。
最初は、母親の付き添いみたいなものだった。
ダイエット目的で──テレビか何かの影響で空手を習おうと思い立った母親から、「ついでにあんたもやるぅ?」と軽いノリで誘われたのがキッカケだった。
あの人は──俺の母親は、俺に対して無関心だった。
適当におもちゃやゲームを俺に与えては、自分の時間ってヤツを最優先するような人だった。
年の割りに気持ちが若くて、移ろい易い性格で──。
そんな母親から無自覚にないがしろにされているのを、子供心に感じていた。
何の気まぐれだったのかは未だに分からないが、そんな母親から一緒に何かをやろうと誘われたのが初めての事だったから、その時は嬉しくてホイホイついていった。
近所にある空手道場。
小学生の部に入門すると──そこには既に、柚葉がいた。
年上相手だろうが毅然と真っ直ぐに立ち向かい、大人顔負けの威勢を放つ柚葉に、最初はド肝を抜かれた。
その瞬間から、何か特別な感情が俺の中に芽生えていたのかもしれない。
熱しやすくて冷めやすく飽き性でもある母親がとっとと空手を辞めた頃になっても、俺は道場に通い続けた。
当時の俺は黒髪短髪の真面目一辺倒な純朴少年だったから──というのは建前で、ぶっちゃけてしまうと、柚葉に会いたかったからだ。
柚葉は、小1の頃からこの道場に通っていたという。
柚葉と学区の違う俺は結局小学校も中学校も同じになる事はなかったけど、道場ではよく顔を突き合わせていた。