Q.I(きゅうあい)~短気で無垢で、天使な君を~


「……っ、は……!?」



 戸惑いを露にしては凝固し、俺をただただ見上げる柚葉。


 顔が──みるみるうちに赤くなっていく。


 しかし、そんなリアクションも、すかさず部室内から聞こえた「ひゅーひゅー」とかいうわざとらしい冷やかしでハッと我に返ったようで──。


 そして──。



「──……ッ!?」


 俺はギョッと目を見開いた。


 凝固の解けた柚葉が、肩に掛けたバッグをぽすっと捨て、引き手を肩の上でじりっと構えているのに気が付いたのだ。



(──あ、殺気)


 空手少年時代に培った、防衛本能が働きかける。


 これは──。

 これは………ッ!



「柚葉の十八番・内手刀打ちの型──!」



 心の声が漏れる刹那、案の定、柚葉の利き手が手刀となり、俺のこめかみ目がけてヒュッ…と飛んでくる。

 咄嗟に俺は上体を後ろに引いては、マトリックス避けのように腰を捻ろうとした。


 その瞬間。



「……ッ、いってぇぇ!! 腰ィィィィィ!!」


 部室に響く絶叫、そして悶絶。


「うっさい、バカ!! 変なタイミングで変なこと言うからでしょ!?」


 同時に、柚葉の怒号も響いた。





 ──……ああ。


 “お灸を据えられる”のは、学習能力のない俺の方みたいです。





【end】


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