人生の続きを聖女として始めます
「まことに!エルナダは優秀な王子がいて安泰だ!」

「うんうん。レーヴェ殿下は本当に優秀で素直で可愛らしい」

ドレイクとガブリエラも絶賛した。
そして、何故かその後ろからもう一人、誰かの声が聞こえた。

「おい、お前達、前を塞ぐな」

聞き覚えのある声に、レーヴェと2人で顔を見合わせていると、声の主がドレイクとガブリエラを、押し退けるように前に出た。

「どうしてオレより先に出ていくんだ」

獅子王はしかめっ面で、ロシュ達を睨んだ。

「陛下がゆっくり歩くからでしょ?何ですか?ひょっとして緊張してるんですか?」

「はぁっ?緊張だと!?誰がだ!?そんなわけあるか!?」

「へぇ、そうなんですかねー。ま、いいですけど。ほら、陛下もレーヴェ殿下の勇姿をご覧ください!」

ロシュはからかうように言って、獅子王をグイグイ前に押した。

「父上様……あの、御機嫌麗しゅうございます……」

レーヴェはなにやら恐縮したように、親子らしからぬ挨拶をした。
年に数回しか会わないっていうから、緊張しているのかな。
でも、他人行儀すぎない?

「見て下さい、陛下!始めたばかりなのにもう的に当てたんですよ?素晴らしいと思いませんか?」

私は鼻息も荒く獅子王に言った。
その必死さに少し気圧された彼は、少し困った顔で的を見、そして今度はレーヴェを見た。

「……うん。小さいのに頑張っているな。す、すごいと思うぞ」

いい慣れてないのかぎこちない。
でも、その瞬間レーヴェの顔にぱあっと花が咲いた。

「あ、ありがとうございます、父上様!」

頬を恥ずかしそうに赤く染めたレーヴェは、嬉しくて堪らないという顔をしている。

「ふふっ、良かったね。レーヴェ」

「はいっ!お母様!」

見上げるレーヴェの頭を撫でていると、ふと獅子王と目が合った。
いつもしかめっ面をしているのに、この時は父親のようにふわりと優しい顔をしていて、思わず見とれてしまう。
暫くそんな状態が続いて、ガブリエラに声をかけられるまで、私達は見つめ合ったまま動けなかった。
< 101 / 238 >

この作品をシェア

pagetop