人生の続きを聖女として始めます
ーー(獅子王)ーー


バタン、と扉がしまる音がした直後、ロシュが声をかけてきた。

「獅子王陛下?どうした?魂が抜けたようになってるぞ?」

「あ?ああ……」

「ジュリ様はいい匂いでもしたか?」

「うん…………………うん?!何を言っているんだ、バカなのかお前?」

放心状態だったオレは、ロシュの質問に我に返った。
確かに……匂いはあった。
それは懐かしく甘い匂いで、昔愛した人から幾度となく漂って来たものだ。

昨晩から陥っている奇妙な感覚。
それにオレは振り回され続けている。

草原に寝転がり、星を見ていた。
すると、隣でジュリがある言葉を呟き、呪文のようなその言葉にオレは動けなくなった。

「レグルス」

それは獅子座で一番明るい星の名だ。
ジュリがそれを知っていても、何もおかしくはないだろう。
だが、問題はそんなことじゃない。
問題は彼女の声が、愛した人とまるで同じ響きだったからだ。
そして、動揺を隠すために尋ねた質問に、更に動揺することになる。
星(レグルス)のことを、ジュリに教えたのは、行方不明の大切な人だと聞いたのだ。
だからなんだ、と思ってみても、重なり続ける幾つかの偶然を否定するのは難しかった。

「獅子王陛下?どうされました?バカみたいにご自分の手を見つめて……」

ガブリエラに問いかけられ、またぼんやりしていたことに気付く。
……しかし、バカみたいは余計だと思うぞ。

「わからなくなっている………」

「何がですか?」

「自分の頭の中がだ……考えれば考えるほどわからない」

ぼんやり見ていた手で頭を覆う。
そんなことをしても、疑問が無くならないことはわかっているが、どうにももどかしい思いがそうさせた。
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