人生の続きを聖女として始めます
薄ら笑いを張り付けて、ミーシャと同じく微笑みはしたけど、内心廊下の壁を木っ端微塵にしたくなっている。
いや、ミーシャの言うことはわかる。
ビクトリアは獅子王の妃、当然それはあり得ることだ。
だけど、どうにもそれを拒否する脳が、一時的に2つの人格を誕生させた!
あえて名前をつけるとすると「冷静のジュリ」と「情熱のジュリ」である。
まず口火を切ったのは冷静のジュリだ。

『落ち着きなさいよ。獅子王とビクトリアは夫婦だし。仲も良かったじゃん。そりゃ、子供も出来るって』

『やだ、気持ち悪い!獅子王がもしルリオンじゃなくてレグルスだったら!?浮気よね!?私が死んだからってそんなホイホイ余所の女と子供作るなんて許せないっ!』

『はいはい。気持ちはわかるけど。何言ったって出来たもんは仕方ないじゃん。それに、まだ噂だし。落ち着いて考えよ?』

『落ち着いて!?これが落ち着いていられるかー!あー、だめ!もうだめ!あのビクトリアに触れた手で私に触らないで貰いたいっ!』

『……それは……同感よ。そうね……獅子王のことは一旦忘れて、レーヴェに全神経を集中するのはどう?』

『あら、冷静のジュリ。いいこと言うじゃん!』

『でしょう?それでは、決定ね』

……冷静と情熱の議論は終わった。
私はとりあえず獅子王のことを棚上げし、レーヴェのことを考えた。

「そう、それは、御目出度いことね……じゃあ、私は急いでいるから失礼するわ!」

「え?ええ。はい」

自慢の大ニュースに、然程顔色を変えなかった私をミーシャが不満顔で見送る。
流石に、心の中の激しいブリザードには気づく様子もない。
冷たく吹き荒れる吹雪を抱え、私は、南館へと走って帰った。
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